電子拾遺館(史料集)

仙台・宮城・東北の歴史・文化・環境を知る手がかりとなる古文書や文献記録について、全文解読文および解説などを付した史料集を電子媒体で公開しています。

『仙台藩の洋式艦船 開成丸の航跡 幕末の海防構想と実践の記録』(佐藤大介・黒須潔・井上拓巳編著)
 幕末に仙台藩が独力で建造した洋式帆船・開成丸の建造経緯や運行を支えた藩の海運システムを解明した報告書です。
 長年仙台藩の天文学史の一環としての開成丸建艦事業を研究され、ウェブサイト「仙台藩の天文史」として公表されている黒須潔さん、江戸時代の東回り海運(現在の北海道から東北地方太平洋岸をへて関東へいたる海路)の研究者である井上拓巳さんとの共同作業です。
 私の論説では、この時期の造艦はペリー来航への対応を契機に、西洋式艦隊を軸とした藩体制の再建・改革の意図が込められていたと指摘しています。口絵デザインにも描いてもらった、帆の青い印は、「日本の東方を守護する大藩」としての仙台藩の象徴として描かれたものでした。
 史料編では、万延元年(1860)冬から翌年春に かけての浦賀・江戸方面への 航海の様子を綴った「ふなわたり日記」(仙台市民図書館所蔵)、建艦を主導 した仙台藩校養賢堂学頭・大槻習斎の関連記録(早稲田大学図書館所蔵)、仙台城下町商人だった小西家の記録(東北大学附属図書館所蔵)など初公刊史料を含む関連史料41点を掲載しています。現時点で確認出来る開成丸関係の記録のほとんどを集成しました。

『丸吉皆川家日誌 天保編(佐藤大介・青葉山古文書の会編著)
 北上山地に位置する磐井郡藤沢町(岩手県一関市)の有力な商家だった丸吉(まるきち)皆川家では、5代目当主の久蔵と、娘婿の六代目喜平治の二人によって、天明の飢饉(天明3年・1783)から明治6年(1873)にいたる、約90年間の日誌が記されました。この「丸吉皆川家日誌」には、地元の藤沢町のことはもちろん、仙台城下町や江戸・京都・大坂との取引を行っていた関係から、仙台藩および日本各地の出来事や社会、経済に関わる出来事・風聞が豊富に記されています。
 この日誌を、2015年秋から、所蔵者や市民の有志「青葉山古文書の会」にて全文解読を進めてきました。全部で約60万文字(400字詰め原稿用紙約1500枚)におよぶ膨大なものとなりました。
 今回は、まず久蔵が記録した、天明から天保15年(1844)までのものを公刊しました。特に記事が豊富なのは、天保4年(1833)以降です。いわゆる天保の飢饉にあたります。「長い災害の時代」の社会と人々の様子を知る手がかりとなる、貴重な記録です。 

丸吉皆川家日誌 慶応3年(1867)9月~明治5年(1872)(鉄虎堂電子拾遺 1~5)
 江戸時代は仙台藩の領地であった、磐井郡藤沢本郷(岩手県一関市/旧・藤沢町)の豪商・丸吉(まるきち)皆川家の5代目当主・久蔵(1780)と、その娘婿の6代目当主・喜平治(1795~1874)が記した日誌です。約2100丁(頁)におよぶ大部なもので、地元の藤沢はもちろん、仙台城下町および仙台藩領、江戸・大坂・京都、さらには海外の情報が詳細に記されています。
 これまでは地元の郷土史の文献や、自治体史、また歴史地震研究の史料として部分的に使われてきましたが、2015年12月より、仙台市内の有志とともに青葉山古文書の会を発足させ、全文の解読を進めています。
 解読文については逐次公開の方針で公開することとしており、今回はその第一弾として、慶応3年(1867)9月から明治5年(1872)の解読文をPDFファイルで公開しています。戊辰戦争前後の政治・社会・経済の状況が克明に記されています。
 なおファイル本体は、東北大学学術リポジトリTOURを用いて公開しています。

小津久足 陸奥日記』(東北大学東北文化資料叢書11集 佐藤大介・菱岡憲司・青柳周一・高橋陽一編)
 小津久足(おづ・ひさたり/号:桂窓けいそう 1804~1858)は、伊勢・松坂の商人で、江戸・深川に拠点を置く豪商、干鰯問屋の湯浅屋与右衛門家の6代目当主です。彼はまた、約7万点の歌、26編の紀行文、さらに蔵書「西荘文庫」の形成と、滝沢馬琴ら文化人との交流をおこなった文化人としての顔を持っていました。なお著名な映画監督・小津安二郎(1902~1962)は、与右衛門家の分家・新七家の出身で、久足とは縁戚関係になります(安二郎の祖父の異母兄が、久足)。
 「陸奥日記」は、天保11年2月27日から3月27日(西暦1840年3月29日~4月29日)の、久足の江戸・深川から陸奥・松島までの旅を描いた作品です。その客観的で詳細な描写、率直な批評は、江戸紀行文学の代表作にして到達点、という評価もあります。
 これまで全文の解読は行われていませんでしたが、その学術史料としての共有のため、さらに小津の旅路が、その171年後の2011年3月11日に起こった地震・津波、また原子力災害の影響を受けていることを鑑み、その歴史再生の一助とするため、全文の解読を企画したところ、2015年末に小津久足研究の第一人者である菱岡憲司氏から約12万字の原稿の提供を受けました。それをうけ、「陸奥日記研究会」として、国文学・歴史学者の共同研究を進めています。
 本書は、東北大学東北文化研究資料叢書11集として刊行され、東北大学学術リポジトリTOURに掲載されているものです。

『18~19世紀仙台藩の災害と社会 別所万右衛門記録(佐藤大介編著)
 別所万右衛門(べっしょ・まんえもん/1797~1846)は、仙台城下町、現在の宮城県民会館の裏付近に屋敷を持っていた、禄高50石の仙台藩士です。東北大学附属図書館には、「天保凶歳日記」との表題で、天明の飢饉(1793)の記録と、天保4年から15年(1833~1844)の日々の記録が残されています。その全文を解読し、また解説を付したものです。2010年に東北大学東北アジアセンター叢書38集として刊行され、2020年に東北大学学術リポジトリTOURに掲載しました。